豆知識
トンボ標本の作り方
 生物標本はそれぞれの研究にとって不可欠のものです。と同時に、その個体が採集されたその日、その場所に、その種の生存に適した環境があったという確かな証でもあり、いわば時代の語り部です。ただ、長期保存に耐えられる標本を作るためには、ちょっとした秘訣があります。そこで、トンボ王国仕様トンボ標本の作り方を伝授したいと思います。
 採集してきたトンボは、三角紙に入れたまま涼しい場所で保管、かわいそうですが餓死させます。これは消化器官に残っている、腐りやすい動物質の内容物を排泄させるためです。
 トンボが動かなくなったらすぐに処理をしなければなりません。肉食昆虫のトンボは大変腐りやすいからです。ただし、数時間程度なら一時的に冷蔵庫で保管しておくこともできます。標本作りに必要な道具類は以下のとおりです。
トンボ標本の作り方
 
トンボ標本の作り方
トンボ標本の作り方 トンボ標本の作り方
@ 腹部第3節から7節下側を服版の縁に沿って切り開きます。
トンボ標本の作り方   トンボ標本の作り方
A 消化管を取り出します。この時、種類によっては背中側の彩色部分を削り取ってしまうことがあるので注意してください。なお、本作業は未熟虫やイトトンボ科などには不要です。
 
B ここで、体の中に通す芯を適当な長さに切ります。
トンボ標本の作り方   トンボ標本の作り方
C前肢の間から腹部の先端まで、芯を通します。これで標本の形を整え、乾燥後の強度も保つことができます。体の細いイトトンボ科などにはブラシなどの樹脂を使用します。
トンボ標本の作り方   トンボ標本の作り方
D 頭部を左側に向け、三角紙に収めます。採集日、採集場所、採集者の記入をお忘れなく。なお記入には標本からにじみ出る脂で文字が消えることのない濃い鉛筆をおすすめします。
 
E 均翅類は前後翅が重ならないよう、縁紋を接着しておきます。展翅標本も三角紙の中で行いますが、均翅類は三角紙を適宜折り曲げて形を整えます。
トンボ標本の作り方   トンボ標本の作り方
展翅標本も三角紙の中で行いますが、翅が閉じてしまう均翅亜目の種類は三角紙を適宜折り曲げて形を整えます。
 
トンボ標本の作り方
トンボ標本の作り方 
@厚さ1cmほどシリカゲル(乾燥剤)を敷き詰めた密閉容器に、三角紙に収めたトンボを封入します。
Aこのまま、約1ヶ月間冷蔵庫に入れ、冷蔵乾燥します。
B脂分の多い種類では、冷蔵乾燥の前にアセトンまたはエタノールに漬けておきます。漬ける時間は小形種で数分、大形種で約10分です。
C未熟成虫や黄色斑が目立つ種類では、冷蔵ではなく冷凍での乾燥をお勧めします。ただ、この際の乾燥期間は半年〜1年を要します。
 
トンボ標本の作り方
@ 完成した標本は、防虫剤を入れた標本箱や密閉容器などで保管しますが、できるだけ湿気のない冷暗所でお願いします。不幸にしてカビが生えてしまったら毛筆用の筆にアセトンかエタノールを含ませて拭き取って下さい。

※ 水分を吸ったシリカゲルは青い粒がピンクになりますが、フライパンなどでほうじると再生できます。


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